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前回の記事「ブログ:年賀状製作」で、虎のコラージュをつくるための素材として使ったのが「AIアート」です。AIアートとは、AI(Artificial Intelligenceの略で、人工知能のこと。以下、AI)が制作したアート作品のことを指します。「AIがアートを制作する」とは、どういうことなのでしょうか。
今回は、データサイエンスxアートの研究が発端で、自称「AIアーティスト」になった黒柳に、AIアートの制作プロセスについてじっくり解説してもらいました。AIアート初心者の金巻がなるべく専門用語を使わずにお届けいたしますので、どうぞお付き合いください。
まずは、黒柳(作?)のAIアートをご鑑賞ください
制作プロセスを見せてもらう前に、まずは黒柳の作品をじっくりと鑑賞してみましょう。
1枚目の作品は、どこからともなく生まれる線に飲み込まれ、不思議な感覚に陥りました。まるで宇宙の中をさまよっているような気分になりますね。2枚目と3枚目は、生物なのか、そうでないのか、なんともいえない物体が描かれています。こちらも輪郭をたどっていけません。脳が今まで認識したことがないものを理解しようとしつつも、混乱が止まない感覚を、皆さまも感じていただけたのではないでしょうか。
AIはキーワードから画像を生成できるらしい
黒柳によると、AIアートの制作プロセスを見る前に、まずは最新のAIによる画像生成の技術について理解する必要があるそうです。
近年のAIの進化が並々ならぬということは、私もSNSやニュース上でなんとなく目にしていました。実際、AIは「アボカドのアームチェア」というキーワードから「アボカド」と「アームチェア」を別々に理解し、「アボカドのアームチェアは、多分こんな感じだろう」と想像して、それを画像にするところまで来ているそうです。
以下の画像は、すべてAIが生み出したものだそう。
まるで、通販サイトで「アボカドのアームチェア」と検索した結果のようです。しっかり座面があって、いかにも座れそう。ビーズクッション風なものもあるし、オフィスチェア風なものもあります。
これらの画像は実際に、どのようにつくられているのでしょうか。AIは実際に「考えた」り「生み出した」りしているのでしょうか。
どうやら、これはまず、AIに「アボカド」の画像を大量に読み込ませ、「アボカドの画像に共通する特徴」「アームチェアの画像に共通する特徴」を学習させるそうです。そうして、AIが「アボカド」と「アームチェア」の特徴をしっかりと学習したのちに、それらの特徴を含んだ「画像を生成」しています。
図にしてみると、こんな感じでしょうか。これが、「アボカドのアームチェアは多分こんな感じだろう」とAIが考えたようなデザインが生み出される仕組みのようです。近年では、このように、AIによる「画像生成」の技術が飛躍的に進化しているのですね。
ただ、AIにアボカドの特徴を学習させるには、人間がなるべく多くのアボカドの画像を用意する必要があります。つまり、人間がそれなりに労力をかける必要がありました。
「CLIP」によってAIアートが誰にでも身近なものに
しかし最近、OpenAIというAI企業が、「CLIP」というなんだかすごいもの(黒柳曰く「学習済モデル」というらしい)を発表したため、AIの画像生成がより簡単にできるようになったそうです。
「CLIP」は、インターネット上に溢れる様々な画像4億枚と、それらの画像が使われているウェブサイトの文章データから、画像に紐づくキーワードを整理したものです。つまり、4億枚の様々な画像とそれにまつわるキーワードを「学習済」の優れものというわけです。
この「CLIP」が誰でも無料で利用できるようになったことで、黒柳が突然、AIを使ってアートを制作できるようになったのです。
AIアートを作るために必要なもの
AIが画像を作れるようになった、ということはなんとなくわかってきました。次に、AIアートは実際、どこで、どのように作られるのか聞いてみました。キャンバスや絵の具や筆はどこにあるのでしょうか?
黒柳から、一連の流れを説明してもらった私の頭の中には、こんなイメージが浮かびました。
まず、アートを描くキャンバスになるのは、Google Colaboratory(コラボラトリー)というGoogleが提供するサービスだそうです。このサービスは、Googleアカウントがあれば、誰でも使うことができて、Google Driveの中からアクセスします。
実際にGoogle Colaboratoryを開いてみると、エンジニアの方が使ってそうな、背景の黒い、それっぽい画面が出てきました。
そもそも、AI(人工知能)は、何らかの命令をしないと動き出しません。そして、命令するために必要なものは、”プログラミング言語”とよばれています。日本語や英語のように、AIに命令するための言語があり、それを人間がGoogle Colaboratoryの画面の中で入力することで、はじめて命令ができて、AIを動かすことができます。
こうしてAIに命令を出すと、CLIPを使って、みるみるアートが生成されていくのですが、命令を色々と変えることによって、アート作品のテイストを自由自在に変えることができるそうです。
まとめると、AIアートの制作プロセスとは「Google Colaboratoryというサービスをキャンバスとして、人がプログラミング言語でAIに命令を出し、AIはCLIPという絵の具をつかってアートを作っていく。また、人間がAIに出す命令を変えることで、様々な表現を生んでいく」ということになりそうです。
初めて「AIアート」と聞いたときは、コンピューターが勝手に生み出したデジタル作品だと思っていましたが、どうやら、AIアートにも人間のクリエイティビティが介在する余地があるように思えます。
いざ、AIアートの制作工程見学へ
さて、私もAIアートに挑戦してみます。
黒柳が、アートにしてみたいキーワードを教えて、とのことなので、数日前に私の夢に登場した「飛んでいるペンギン」というキーワードを伝えました。
より面白味を出すために、黒柳は「空を飛んでいる機械のペンギン」とGoogle Colaboratoryに入力してくれました。
また、このアートの雰囲気を、明るくするか、暗くするか、油絵のようにするか、水彩画のようにするか、ぼかすか、ピカソっぽくするか、様々な表現を命令で調整することができるそうです。
そこで今回は「できるだけリアルに」かつ「幻想的」になるように命令してもらいました。そして、Enterキーを押すと、Google Colaboratoryが動き出します。
最初は画面の上に、茶色いキャンバスのような画像が現れました。そこから「空を飛んでいる機械のペンギン」が徐々に表現されていきます。だんだんと、入力したキーワードのイメージに近いビジョンが現れはじめました。
5分程度待つと、このようなアートが完成しました。
まるで、ペンギンがロケットのように空に勢い良く飛び出したかのような、臨場感のあるアートになりました。これはおもしろい!
しかし、いったん落ち着いて眺めていると、欲が出てきます。
「これでは、主役のペンギンが少し小さいな…もっとペンギンを大きくしたいな。」
イメージ通りにならなかった場合は、AIに命令を出し直すことで、違う表現方法を何度も試すことができるそうです。アーティストが色合いを微調整していくように、AIアートも、命令を変えて、様々な表現方法を試せるんですね。
人間のクリエイティビティもまだまだ必要そう
表現を微調整する以外にも、一回出来上がったアートに他の画像を合成することで、その合成した画像をさらに学習し、新たにアートを生成することもできるそうです。
例えば、先程のアートのペンギンが小さく感じたので、ペンギンを真ん中に大きく合成してもらいました。この画像をスタート地点として、改めてAIが動き出し、アートを生成し始めます。
そして、待つこと5分。最終的に完成したアートはこちらです。
真ん中に大きなシルエットが現れました。はっきりとペンギンを表している訳でもなく、胴体のような部分だけ表現されています。どこか謎めいた、何か意味のありそうなアート作品の完成です。
黒柳のアート制作プロセスを見て、これからは「AIか人間か」ではなく、「人間とAIがどのようにコラボレーションしていくか」について考える時代になっていくんだろうなと感じました。
AIアートの舞台裏
AIアートが生まれる仕組みがよくわかりましたね。ここまで、お付き合いいただいてありがとうございました。楽しんでいただけましたでしょうか。
最後に、冒頭で紹介した数々の黒柳のアートは、AIにどのような命令を出して、どのようなキーワードを用いて制作したのかを教えてもらいましょう。
「これは、複数の怪物たちが街に侵略している感じを表したかったので、”Monsters in the city”というキーワードで作りました。でも、最初の結果はとてもシンプルな背景で、怪物が不気味だったんです。もっと可愛い感じにしたいと思い、”Yellow monsters in the complicated city | realism” というキーワードに変更しました。すると、街の感じがより複雑になり、モンスターも可愛くなり、現実主義的な作風になりました。お気に入りの絵の一つです。」
おまけ
黒柳先生の作品は、以下のサイトから購入することができます💰
https://opensea.io/collection/invasion1000