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幼少期をワシントンD.C.とニューヨークで過ごし、ANAのパイロット訓練生、BCGを経て、アンカースターでは越境パートナーシップに従事している苔口。それに伴って、海外出張は最も重要な仕事の一つ。年間を通じて常にどこかに行っています。そして、どんなに慣れていても、想定外のことが起きるのが海外出張。その都度、臨機応変かつ迅速な対応が求められます。そこで、海外出張を成功させるコツや、トラブルを防ぐための事前準備、ヘビートラベラーが行き着いたスーツケースの中身から、お土産の選び方まで、質疑応答形式で疑似体験してみましょう。
出張準備編
Q:どのくらい前から準備をはじめますか?
出発の3〜4週間前から準備をはじめます。
Q:なにから準備しますか?
まずは、出張の目的を確認します。交流なのか、契約交渉なのか、視察なのか。
その目的に合わせて、出張中に達成したい様々なゴールも決めていきます。
Q:出張で達成したいゴールとはなんですか。
アンカースターだけで視察に行く場合は、見たいものが見れて、触れたいものに触れられることが最も大事です。一方で、日本企業と海外企業のパートナーシップ契約交渉に随行する場合などもあります。したがって、それぞれの出張で達成したいゴールの定義が異なります。そればかりでなく、複数のゴールある場合は、スケジュール調整も複雑になっていきます。
Q:スケジュールの組み立て方は?
まず、会いたい人・やりたいことを、ざっくりとリストにします。スケジュールが組めるかとか、調整が可能かとかはあまり意識せずに、どんどん並べていきます。次に、優先順位を決めていきます。
Q:食事の予定は必ず入れますか?
はい、現地の美味しいものを食べることは、出張の大事なゴールの1つです。
Q:優先順位はどのように決めるのですか?
第一に、現地の方と対面で会う打合せ。たとえば、今まで何度もZoomで打ち合わせしてきたけど、まだ一度も対面でお会いしていない方には、必ず直接会いたいですよね。
第二に、出張の目的やゴールに直接関わるイベントを優先します。
リストの中を行ったり来たりしながら、何度も何度も優先順位を見直していきます。
Q:優先順位が決まったら何をしますか?
優先順位が決まったら、最優先イベントから日程調整を始めます。
もっとも、立地や移動のしやすさ、イベントとイベントの間の時間の確保など、多くの要素が関わってくるので、すんなり調整できることはありません。
優先度が高いイベントの日程調整がある程度見えてきてから、空き時間に他の、優先度が低めのイベントを入れていきます。
この順番を間違えて、優先度が高いイベントの日程調整を先方と行う際に、優先度が低いイベントのせいで、調整可能日時の選択肢を狭めてしまう、なんてことは避けたいところです。
Q:イベント間の移動はどうするのですか?
移動は、一緒に行く人、都市、状況によって大きく異なります。たとえば、ニューヨークの場合、主にUberを使って移動しますが、VIPの随行の場合は、ショーファー(いわゆるハイヤー)を貸し切ったりします。ロサンゼルスでは、街が大きくて移動距離も長いので、レンタカーを借りたほうが良いし、トロントでは市電を駆使すればどこにでもスピーディーに移動できます。レンタカーを借りる際も、スーツケースのサイズと数を考慮して、車のタイプを決めなければなりません。ミニバンを借りることが多いですね。
あと注意点としては、大きなオフィスビルだと、入館プロセスにとても時間がかかります。入館するために、全員のパスポートが必要になる事がほとんどです。ホテルの部屋にパスポートを置いてくると、最悪ビルに入れません。そもそもパスポートを持ち歩かないのはおすすめしません。事前に入館方法などを、確認しておくことが大切です。
Q:スケジュールはどのように管理していますか?
スケジュール調整中はスプレッドシートで管理しています。スケジュールが確定したらGoogleカレンダーを使います。一緒にイベントに参加する人には通常通り招待を送ります。移動時間もイベントとしてカレンダー上でブロックします。
Q:スケジュールが決まったら、次は何をしますか?
各イベントがどうなるか、真剣に想像します。
どんな場所を視察するのか、どんな打合せになるのか、など。頭の中で、実際のイベントを本気で想像して、成功している自分の姿だけじゃなく、失敗している自分の姿もシミュレーションします。なぜ失敗してしまうのかが事前に想像できれば、その失敗に備えることができます。大抵の場合、最も大事なのは、徹底的なリサーチです。
Q:どのようにリサーチしますか?
出張の目的が視察の場合を例に、出張先の都市についてリサーチする方法を説明します。
まず、メジャーなウェブサイトから調べていきます。情報を知るのに便利なウェブサイトはたくさんあります。ここで大事なのは、日本語の情報だけに頼らないことです。たとえばTime Outは、現地の人たちも参考にしている情報がたくさん掲載されていて、日本のウェブサイトでは見つからない最新スポットを見つけることができます。
次に、本屋さん(もしくはKindleなどの電子書籍)で、本や雑誌を探しに行きます。旅行コーナーに陳列されている旅行ムック本ではなく、いわゆるトラベルカルチャー誌のバックナンバーで、その街の特集が組まれている号を探したほうが、ユニークで面白い情報を見つけやすいです。例えばTRANSITでは、その街の歴史や文化について詳しく現地取材されていて、出張時のウンチクに尽きません。
・TRANSIT
・PAPERSKY
・CREA TRAVELLER
Q:YelpやTripadvisorはどのように使いますか?
Yelpはすべて英語ですが、日本でいう食べログのようなサイトです。主にアメリカ出張で使います。Tripadvisorもインターナショナルな口コミサイトで、ホテルやレストランの口コミを調べることができます。Tripadvisorは全世界の情報が掲載されていますね。
観光者向けに編集されたものより、現地の人のリアルな口コミが参考になります。特にトラベル雑誌にも載っていないようなB級グルメの情報はYelpで見つかりますね。
Q:日本の情報はあまり参考にしませんか?
なにはともあれ、まずは現地に住んでいる友人に声をかけるのが一番。でも、すべての都市に知り合いが住んでいるわけではありません。その場合は、最近行ったことがある人、特に旅行上手な人にヒアリングします。時々、現地の人を紹介してくれたりして、日本人がまだ誰も知らない秘密の場所を教えてくれたりします。
やはり、紹介で人とつながると、最初からある程度信頼関係が築けているので、すぐに仲良くなることができますね。ニューヨークやサンフランシスコには、いつでもなんでも相談に乗ってくれる友達がいます。そんな現地の友達に最新スポットに連れて行ってもらうのも、出張の大事なイベントの一つです。
Q:海外での打ち合わせ、ミーティングはどのように実施されますか?
先方がオフィスに招待してくれる場合は、会議の雰囲気は東京とあまり変わりません。異なる点といえば、最初の名刺交換の儀式はほぼありません。ほかにも、大事な会議で、会議室に飲み物だけでなくサンドイッチ、ドーナツなどが用意されていることもありますが、特に無理して食べる必要はありません。
また、朝食やランチを食べながら、あるいはカフェでコーヒーを飲みながらビジネスの話をすることもあります。先方のオフィスに行ってみたら、会議室ではなく、散歩してカフェに行こうよと誘われることもよくあります。
Q:海外には日本のように「会食」とか「飲みニケーション」みたいなカルチャーはありますか?
はい、もちろんあります。海外では「会食」を「ソーシャライジング=社交の場」と捉えることが多く、気づいたら初対面の仲間をどんどん紹介されたりします。でも夜の過ごし方は日本と少し違います。ディナーや飲む場所で、ビジネスの話をあまりしません。というか、ほぼしません。ディナーに誘ってくれたら、それは仲良くなる目的で臨みましょう。家族のことやプライベートの話もしますし、そこまで遅くない時間帯に帰るのが一般的です。
逆に、ブレックファーストミーティングや、ブランチミーティングでは、仕事の話をします。これまで一番早かったのは朝の7時半。9時が平均的で、朝10時だと少し遅いな、という印象です。
出発準備編
Q:日本から持っていくと喜ばれるお土産はありますか?
たくさんあります!
・蒸気でホットアイマスク
・お灸
・壁掛けの日めくりカレンダー
・書道セット
・最先端文房具(例:芯が出ないホッチキス)
・一歩堂の緑茶(スティックになっているやつ)
・食器を拭く布巾
和文化であれば何でもいいというわけではありません。日本にしかないもので、かつ実用的なもの、めずらしいものが喜ばれます。家事で実用的に使えるものもおすすめです。
Q:持っていくと便利なグッズはありますか?
ビーチサンダル
海外は基本土足なので部屋で履けるビーチサンダルは便利です。ホテルによりますが、使い捨てスリッパがついているところは少ないです。シャワールームにもサンダルを履いたまま入れるところも利点ですね。
延長コード
日本のホテルのように、コンセントがたくさんあるわけではありません。しかも国によってコンセントの形も違うので変換アダプターが必要になります。延長コードがあれば、変換アダプターは1個で済みますし、ホテルロビーなどで、大勢で仕事をするときも重宝します。
Q:穂高さんはなぜいつも荷物が少ないのですか?
身軽でいたいので、少なめに持っていって、荷物をできるだけ小さくすることに努めています。服や下着も、少なめに持っていって、向こうで洗うか、最悪買えばいいと思っています。
ただしパソコンやカメラ、メモリーカード、モバイルバッテリーは、どんなに重くても「必ず手荷物に入れて」います。モバイルバッテリーについては、そもそも預け荷物に入れるのは禁止されています。空港が預け荷物をスキャンする際に引っかかってしまうと、スーツケースを開けられてしまうこともあるので。逆に、衣服やお土産など、最悪ロストバゲージしても大惨事にならないものや、手荷物検査では没収されてしまうたぐいのものは預ける荷物にまとめています。
Q:予約が取れていないなどのトラブルはありませんか?
レストランもホテルも、会社訪問も、事前にConfirmation Call(確認の連絡)を必ずしています。
レストランは、予約がちゃんとできているか、当日の朝、電話して確認します。ホテルも、チェックインの前日に予約が取れているか連絡します。直前に連絡すると、時々キャンセルが出ていて、より良い部屋にアップグレードできることもあります。
海外でもミーティングの相手には「いまから行くね」「今日はよろしくね」とメールやメッセンジャーなどで声をかけてリマインドするようにしています。こちらにとっては大事な訪問でも、先方にとっては、忙しい予定の中のただの一つの会議に過ぎないので。
パートナーシップ編
Q:海外パートナーとの関係を築く上で大切にしていることありますか?
コロナの影響もありますが、今後も、実際に顔を合わせる経験は、海外の企業とパートナーシップを築く上ではとても大切です。海外だからすべてリモートというわけではなく、現地に行って直接お話をする機会を大切にしたいです。
海外の企業は日本よりドライなイメージがある人も少なからずいると思いますが、決してそんなことはありません。むしろ、一般的なイメージよりずっとウェットです。ビジネスの話も大切ですが、アイスブレイク、カジュアルな話もよくします。お互いが歩み寄れるように、お互いが心がけているという感じです。
Q:これまでカルチャーの違いで苦労した経験はありますか?
カルチャーの違いというか、日本側と海外側の期待値の違いで大失敗してしまったことがあります。
日本のパートナー様を、とある海外企業の視察にお連れしました。その際、日本企業側は単に「視察」をしたかっただけで、ビジネスの話をするつもりはなかった。一方、海外企業側は、一緒にビジネスをする意気込みで準備をしていました。途中でそのズレが顕著になってきたとき、全身から血の気が引いたのを今でも忘れません。事前にお互いの期待を調整できていなかったからですね。
Q:最後に、穂高さんにとって、海外出張とはなんですか?
会社のお金で行ける、旅行です。笑