疑似体験:先祖をめぐる戸籍の旅

編集・テキスト
金巻未来
カバー画像
Midjourney(プロンプト「A young woman exploring her ancestors for her family tree」)

突然ですが、皆さんはご自身のルーツをどこまで遡ったことがありますか?祖父母のさらに先の自分と血縁のある方々が、明治維新、産業革命、戦後の復興などを、どこで、どのように体験していたのか、そんなことに思いを馳せたことはありますか?
今回は、自分のルーツに興味が湧いて実際に調査を始めたら、日本の戸籍システムの緻密さに驚愕し、さらに、最先端のデジタルサービスを使って、先祖の明治時代のふぉとぐらふぃ(写真)まで発見してしまった金巻が、その過程や面白さ、実際に挑戦する際の手順についてご紹介していこうと思います。

<目次>
1.日本の戸籍制度がすごかった
      a. そもそも戸籍って?
      b. どうやって戸籍を取り寄せるの?
      c. どうやって戸籍を読むの?
2. 「国立国会図書館デジタルコレクション」がすごかった

日本の戸籍制度がすごかった

これは私が最近、興味本位で取り寄せてみたら、いとも簡単に入手できてしまった先祖の戸籍の一部です。

金巻が取得できた中で最も古かった戸籍は「明治19年式戸籍」という形式 

遺産相続などのために、祖父母や曽祖父母(そうそふぼ)まで遡って戸籍を確認した経験がある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、筆で書かれていて、大字(だいじ・加筆改ざん防止用の漢数字)が使われている、「明治19年式戸籍」まで実際に目にされた方は少ないのではないでしょうか。

よく見てみると、大政奉還(1867年)よりもさらに前、天保(1830年代)や安政(1850年代)といった年号も見られます。

まさか日本全国の役所に、100年以上前の戸籍がしっかり保管されていて、こんなに簡単に取り寄せることができてしまうとは。筆で丁寧に一文字ずつ書かれたこの戸籍から、勝手にロマンを感じてしまった私は、自分の先祖についてもっと知りたいと思うようになりました。こうして、私の先祖をめぐる旅がはじまりました。

そもそも戸籍って?

戸籍とは「人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので、日本国民について編製され、日本国籍をも公証する唯一の制度」とされています。(法務省ウェブサイト

つまり、戸籍は人が生まれてから、結婚したり、死亡したりなど、その人の一生を公式に記録し、証明されているもので、戸籍を見るとその人が送ってきた人生の足跡が、時系列順に分かるようになっている、ということです。

戸籍に書かれていることは「本籍」「筆頭者」「氏名」「生年月日」「続柄」などで、夫婦とその子供(未婚)が、「家族 ≒ 戸(こ)」として一つの単位にまとめられています。

ちなみに「本籍」は戸籍が登録・保管されている市区町村のことで、「筆頭者」は戸籍の一番最初に書かれている人のことです。同じ戸籍上に記載される人は、この筆頭者と同じ名字になることが決まっていて、結婚して夫婦二人で戸籍を作るとき、夫の名字にするときは夫が筆頭者に、妻の名字にするときは妻が筆頭者になります。

「家族 ≒ 戸」という単位で管理され、血縁関係が証明されている戸籍という制度は、世界をみても日本・中国・台湾の3国にしかありません。
反対に、アメリカ合衆国、イギリス、オーストラリアでは国家による家族登録を行わない伝統を持ち、戸籍のような家族単位の国民登録制度は存在せず、国民は基本的に個人単位で管理されているそうです。(Wikipedia「戸籍」

どうやって戸籍を取り寄せるの?

戸籍は、自分の血の繋がっている人(直系尊属)の分であれば、誰でも簡単に取り寄せることができます。

ただし、戸籍法により戸籍の保存義務が150年と定められているため、現在私達が取り寄せられる最古の戸籍は1870年頃まで、つまり明治時代初期のものになります。市町村によっては戸籍が焼失したり紛失したりしている場合もあるようですが、多くの人が明治時代までの戸籍を遡ることが可能だそうです。こうしている間にも過去のものがどんどん破棄されてしまうので、興味がある方は是非挑戦してみてください。

具体的な申請方法

実は、家系図づくり専門の行政書士さんがたくさんいらっしゃるので、専門家に依頼するのが最も手っ取り早い方法です。しかし、それではロマンに欠けてしまいます。少しずつ自分で取得することも可能なので、その過程を楽しんでみてはいかがでしょうか。

インターネットで「戸籍の申請方法」を調べればたくさんの情報が見つかるので、ここでは大まかな流れだけご紹介します。

基本的な流れ:
STEP1. 親の戸籍を取寄せる
STEP2. 親の戸籍に記載されている従前(じゅうぜん)の戸籍(親が結婚する前に入っていた戸籍)の本籍地を確認し、そこの役所から親の親(祖父母)の戸籍を取寄せる
(すべて郵送で可、実際に役所に行く必要はありません)

これを繰り返して世代を遡っていくだけです。

STEP1. 親の戸籍を取寄せる

私の場合は、自分の生まれ故郷の役所から、父親の戸籍を取り寄せるところから始まりました。いっきに取り寄せるのは労力がかかるので、「まずは父方の男性の血縁を探る」といったように決めて調べていくことをおすすめします。

基本的にどこの役所も、同じような手続きで、以下を用意すれば一週間程度で戸籍の写しが送られてきます。

<役所に送る書類例>
・戸籍申し込み用紙(「〇〇市 戸籍 郵送」などと検索すれば大体の市役所のウェブサイトからダウンロードできます)
・身分証明書(運転免許書など)のコピー
・小為替450円(郵便局で入手可、費用は役所によって多少異なる)
・返送用封筒

私が父親の戸籍を申請した時は、一週間程度で送られてきました。それには、父親の両親(私の祖父母)の名前や、従前戸籍(結婚する前に属していた戸籍)の情報が記録されていました。

現代の戸籍。筆で書かれたものとは大違い。

STEP2. 親の戸籍に記載されている従前の戸籍(結婚する前に入っていた戸籍)の本籍地を確認し、その役所から親の親(祖父母)の戸籍を取寄せる

そして今度は、父親の従前戸籍(以前属していた戸籍)があった役所に、同様の手順で祖父の戸籍を申請します。用意する書類は、先程紹介したものに加えて、「血縁関係を証明できるもの(=取り寄せた父親の戸籍コピー)」が必要になります。

これをどんどん繰り返していきます。

ただ、同じエリアに先祖代々住み着いていて、同じ役所に戸籍が集中している場合は、一回の申請ですべてを取り寄せることができます。

私の先祖はとある地域にゆかりのある家系で、一つの役所から25人分の戸籍を一括で取り寄せることができました。もともと一人分の戸籍を申請したところ、「遡ったら25人分見つかったんですが、一気に送りましょうか?」と役所から電話がかかってきました。

どうやって戸籍を読むの?

戸籍を取り寄せたら、あとはじっくりと読み込んでいきます。一見すると、ひらがながひとつも無く、漢文のように見えたので、専門家の助けがなければ解読できないだろうと思いました。

しかしよく見ると、「出産」「死亡」「届出」など比較的よく使われる漢字が多く、大字(壱、弐、参、四、五・伍、陸、七、八、九、拾)さえ理解すれば、意外にも簡単に読み進めることができました。

このように、じっくりと戸籍を読み解き、それを元にメモ程度の家系図を作成するだけでも、とても面白い体験になりました。

「国立国会図書館デジタルコレクション」がすごかった

ただ、先祖の人生の出来事(結婚、出産、死亡)がわかって、家系図ができたところで、最も気になるのは、彼らがどのような人物であったかということですよね。
以前は専門家にお願いして古い文献や資料を調査してもらうしか方法がなかったそうですが、最近になって、誰でも使える、とても強力なツールが登場したことを知りました。

それは「国立国会図書館デジタルコレクション」です。

国立国会図書館デジタルコレクション公式ウェブサイトより

この「国立国会図書館デジタルコレクション」は、国立国会図書館にあるデジタル化された所蔵資料・電子書籍・電子雑誌など約450万点を、インターネット上で検索・閲覧・視聴できるサービスです。図書館に行かなくても自宅で資料を参照することができます。

そして2022年12月のリニューアルで、約 247 万点の書籍の本文全文(!)がテキスト化され、書籍の中身すべてが検索対象になりました。

古い雑誌や新聞はもちろん、自治体で作成された書籍、当時の庶民の営みを支えてきた地域の広報誌まで、あらゆる資料がデジタル化されています。これは先祖探し(もちろんそれ以外も)を楽しめるツールであることは間違いありません。検索欄に自分の先祖の名前を入れると、その名前が含まれている書籍がヒットします。

Twitterで、国立国会図書館デジタルコレクションで先祖の名前を検索した人たちからは、以下ような声が上がっていました。

“曽祖父が書いたお寺の修理工事報告書がでてきた”
“ひいおじいちゃんが県内最強の草相撲力士だったことがわかった”
“高祖父が公務員だったらしく官報にいっぱい記録があった”
“祖父が第2次世界大戦前に樺太で商売してた店の情報まで出てきた”
“歯医者をやっていた祖父の論文らしきものを発掘”

このサービスは、基本的に誰でも利用できます。ログインせずに閲覧可能なデータもたくさんありますが、全てのコレクションを閲覧するには、無料の会員登録が必要です。会員登録には本人確認(身分証明証のアップロード)のため、数日かかることがあります。

戸籍を一から調べるのが難しいと感じる方でも、まずはこのサイト上で曽祖父母の名前を検索してみるだけでも、十分に面白い発見があるかもしれません。

ちなみに私は、祖父の所属していた大学校友会の名簿や活動記録が出てきたり、高祖父(祖父の祖父)が幕末に関わっていた政治活動の資料や写真がたくさん出てきたり、曾祖母が働いていたであろうお店の情報が官報から出てきました。全く知らなかった先祖のことがどんどんわかってしまって、調べはじめたら好奇心がとまらなくなってしまいました。

金巻の高祖父が映っていたふぉとぐらふぃ(写真)  ※著作権の関係でぼかしています

こんなに簡単に過去の資料の検索・閲覧を可能にした現代の技術と、それを可能にしてくれた国立国会図書館に感謝しつつ、みなさんも是非試してみてはいかがでしょうか。

終わりに

自分のルーツを辿ったお話、いかがでしたでしょうか。過程の驚きや興奮が少しでも疑似体験として、お伝えできたら良かったと思います。アンカースターでは、チームミーティングなどで、頻繁に様々な歴史の話をしています。日本と世界の橋渡しをお手伝いする上で、多様な価値観や考え方に対する理解を深めるためには、そこに至った歴史上の出来事や文化のルーツなどを知ることが必要不可欠だと考えているからです。

そうして少しずつ歴史に興味が出てきたところに、今回の戸籍調査で得た自分のルーツを重ね合わせることで、かつてはただの史実としか認識していなかったものがより鮮明に感じられるようになりました。

もし、この記事が皆さまの先祖を調べるきっかけになったら、そのルーツ探しの旅が、私以上にカラフルで驚きと発見に満ちたものでありますように!

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