疑似体験:Anchorstar English Experience: Anchorstar English

編集・テキスト
金巻未来
話し手
ネルソン・リン

「疑似体験:外国人の雇用」の記事では、私(金巻)がニューヨークで出会った英会話講師のネルソンを採用し、彼が2022年6月に来日したところまでご紹介しました。その後、ネルソンは「Anchorstar English」のヘッドコーチとして、大活躍しています。今回は、アンカースター初のオリジナル教育事業「Anchorstar English」の立ち上げの経緯やサービスの内容、そして将来の展望についてご紹介させていただきます。

法人向け、平日の昼間、対面、実践型の英会話事業をつくる

ネルソンが日本に来てどんな英会話事業ができるかと悩んでいた時、アンカースターが普段お世話になっているパートナー企業様に、英語に関する課題をヒアリングしました。すると、多くの企業は英語教育に関する福利厚生を充実させているにも関わらず、実際のビジネス上では未だ多くの課題があり、英語教育にはまだまだ改善の余地と、可能性があることがわかりました。そこで私たちは、法人向けに特化した英語事業の開発にチャレンジすることにしました。

私たちが開発したAnchorstar Englishの最大の特徴は、その提供手法にあります。お客様企業には、毎週一度、授業を行うための会議室を確保していただきます。そこに講師が1日常駐し、各生徒はその会議室で1時間の対面レッスンを行います。そうすることで、生徒は学校への通学が不要となり、就業時間中に気軽にレッスンを受けられるようになります。生徒にとっても、英語教育は業務であるという認識が高まり、より高いモチベーションでレッスンに臨むことができます。

また、あくまで「業務としての英語教育」だからこそ、生徒が所属する部門の具体的なニーズや目標を、レッスンに反映させることができます。Anchorstar Englishを受ける生徒が所属する部門長さんや、必要に応じて人事部で社内教育を担当されている方とも定期的に情報共有を行いながら運営しています。例えば、英語に関する課題だけでなく、会社全体として抱える課題や期待している効果などをヒアリングすることで、様々な業務に必要な、実践的スキルを提供することを心がけています。

ネイティブではなく「グローバルコミュニケーター」になる

アンカースター代表の児玉は横須賀市生まれで、10歳で渡米するまではごく普通の日本の小学校に通っていました。もちろん英語は第一言語ではなく、発音も文法もネイティブではないのですが、帰国後は、Yahoo! JAPANで米国Yahoo!とのサービス開発を担当し、Facebook Japanでは本社と密に連携を取り合う日本の成長戦略の責任者を務めるなど、言語の壁を超えた業務に従事してきました。

児玉は、ネイティブではないからこそ、相手の英語のレベルを問わず、極力伝わりやすい単語を組み合わせ、各文章を短く、聞き取りやすい大きな声で、シンプルに話すように練習してきたそうです。

このように、絶対的に相手と「通じ合う」ことに力点を置いてコミュニケーションを行う人のことを私たちは「グローバルコミュニケーター」と呼ぶことにしました。

Anchorstar Englishでは、この「グローバルコミュニケーター」の育成に全力で取り組むことにしました。一般的な教材を使って、ひたすら反復練習で英語力を鍛えるのではなく、「通じ合う」ために使える様々なコミュニケーション手法を知り、その手法を使いこなすことを最重要視しています。

私たちが考える「コミュニケーション」は、言語のスキルだけでなく、表情や雰囲気、声の大きさやトーン、マインドセット、ボディランゲージ、そして相手のコミュニケーション力に合わせた対応など、とても多くの要素が複雑に絡み合った行為です。英語スキルは初級レベルだったとしても、強靭なマインドセットと適切なボディランゲージを駆使すれば、相手と十分に意思疎通することは可能だと信じています。
つまり、多様な要素が絡み合うコミュニケーションを行うためには、ただ英語スキルを磨いて、テストで高得点を取るだけでは不十分だということになります。

例えば、

A. 幼少期に英語圏に住んでいたことがあって、きれいな発音で流暢な英語を話せる方
B. 大人になってから英語を学んだため、話すスピードは遅いが、少ない単語量でもシンプルにズバッと核心を突くように話せる方

を比較すると、目的を達成するためのコミュニケーションが求められるビジネス環境においては、Bの方が優れている場合も大いにありうるのです。

私たちは、この複雑な英語で「通じ合うため」のコミュニケーションをどう訓練するか、また、それをどう評価するべきかについて検討を重ねました。

選手が「試合で最良の結果を得られるように」するのがコーチ

”English Like a Sport”(英語をスポーツのように)

これが、Anchorstar Englishのコンセプトです。
議論を重ねた結果、私たちは英語で「通じ合うため」のコミュニケーションは、フィギュアスケートやバレエ、スケートボードのような「技と表現力を組み合わせて競うスポーツ」と同じだと考えるようになりました。

「技だけを磨いても勝てず、表現力だけ優れていても勝てない」ところが、英語にとても似ています。であれば、Anchorstar Englishでも、このようなスポーツにおけるトレーニングの考え方を適用することができるかもしれません。講師と生徒の関係も、コーチと選手の関係と同じように捉えられることができます。

例えば、フィギュアスケートの選手たちは、コーチと共に大舞台に向けて、現状を分析し、勝つための戦略を立て、それに向けたトレーニングメニューを開発し、選手の成長を常に確認し、怪我や体調管理に気をつけながら日々の練習を行います。実際の試合を想定した模擬試合を行ったり、小さな大会に出場したりしながら場数を踏んで、緊張しない強いハートも育てていきます。

Anchorstar Englishでは、このようなスポーツトレーニングの手法を応用することにしました。定期的に「アセスメント」(試合)を行い、生徒は「本番さながらの環境で、最高のパフォーマンスを発揮すること」を一番の目標とします。アセスメントは動画で収録され、その模様を「グローバルコミュニケーター」である審査員(児玉など)が評価します。審査員は、実際に「通じ合うことができているか」という観点から生徒のパフォーマンスを評価し、良かった点、改善できるポイントなど、具体的なフィードバックを提供します。

このように、Anchorstar Englishでは、生徒とコーチが「本番で最高のパフォーマンスを発揮し、相手と通じあえること」という共通の目標に向かっていく、信頼できるパートナー同士であることを最も大切にしています。

ネルソン(Anchorstar Englishヘッドコーチ)インタビュー

 

Anchorstar Englishの創業メンバーであり、ヘッドコーチを務めるネルソンに、普段どのようにレッスンを行っているのか、どんなことを心がけているのか、何を思っているのか、色々と質問してみました。

Q: 1時間のレッスンは通常どういう流れで行われるんですか?

通常はウォームアップで彼らの仕事や日常生活について少し話します。その後に、カスタマイズされた、それぞれの生徒にとって関心が高まるコンテンツを用意し、それらについてディスカッションをします。私が行うトレーニングは会話が中心なので、一緒に意味を作り出すような対話の形をとります。そのため、私は自分を「講師」ではなく、生徒と並んで一緒に走る「コーチ」としてお互いに学び合っていると感じています。私も生徒から日々多くを学んでいます。

Q: 生徒は1時間でどのくらいの量を話すんですか?

内容にもよりますが、80%から90%は生徒が話すように努めていて、彼らにスポットライトを当てるようにしています。例えば、一般的にホワイトボードは先生の後ろにありますが、私のレッスン中はホワイトボードは生徒の後ろに置いてあります。生徒がホワイトボードを使って私に説明したり、私に教えたりしています。もちろん、私は、言語とコミュニケーションのサポートを提供します。

Q: レッスン内容はどうやって決めているんですか?

私たちの目指すところは、言語学習を超えたコミュニケーション能力の向上です。そのため、さまざまなコミュニケーション強化のツールを繰り返し練習しています。だからといって、生徒の具体的なニーズを無視するわけではありません。たとえば、次の日にはプレゼンテーションがある、英語で何か案内をしなければならない、といった状況では、その要件に即座に対応し、一緒に練習します。そして、生徒がより広い視野を持つために、興味深いトピックや新しいインプットを提供します。
つまり、各生徒の課題となっている部分を伸ばすことを念頭に置きながら、ニーズにも応じてとてもフレキシブルにレッスン内容を決めているということです。

Q: 普段レッスン中に特に気をつけていることはありますか?

それぞれの生徒に対して、私はレッスン中にできるだけ多く詳細なメモをとるようにしています。コーチとしての私の役割は、単に言語やコミュニケーションを教えるだけでなく、生徒の人生そのものを理解し、彼らが持つストーリーや思考パターンを掴むことでもあるんです。それぞれの生徒が持つ長所や短所を認識し、それぞれが成長できるようなトレーニング、コミュニケーション力を向上させるアクティビティは何かを常に考えています。

Q: 法人向けと、今までやっていた個人向けの教育で何か差はありますか?

私の基本的な教育理念は変わらないです。ただ、法人様向けの環境は、目標が決まっていたり、明確なアウトプットが求められる場合が多いので、より速く、効率的に、また新しい手法で生徒を目標に導くための活動をデザインしなければなりません。それは非常に刺激的です。

Q: いま複数社でレッスンをしていますが、会社ごとにどのような違いがありますか?

会社の違いもおもしろいですが、部署の違いもとてもおもしろいです。各社、各部署、さらにその部署の中での役職や役割によって、大きな違いがあります。シニアマネージャー、ミドルマネージャー、あるいは現場の方など。それぞれ必要なコミュニケーションも違いますし、もちろん言語レベルもぜんぜん違います。

また、それぞれの部署には、特有の目標や役割があります。例えば、営業部門では、プレゼンテーションの機会が多かったり、顧客との深い関係性を持つことが求められたりします。一方で、グローバルなプロジェクトに関わる部署では、世界中のパートナーと協働する必要があります。それぞれの部署やレベルにより、違ったニーズや挑戦があります。

Q: Anchorstar Englishをはじめてよかったことはありますか?

本当に素晴らしい人々に出会えることに感動しています。生徒よりも私のほうが多くのことを学ぶことができています。生徒の皆さんは、興味深いストーリーをたくさん持っていて、私にとってとても刺激的です。

Q: ネルソンの夢や今後どうしていきたいか、何か考えていることはありますか?

「グローバル・コミュニケーション」という考え方を世界に広めることです。コミュニケーションや言語の障壁がなくなる世界を想像してみてください。異なる文化を持つ人々が円滑にコミュニケーションできるようになるのです。私は日常的にアンカースターや他のチームと協力する際にも同様のアプローチを取っています。私はまだ上手に日本語が話せませんが、それでもなんとか日本で生活できていますし、アンカースターの仲間とは共同作業ができています。初心者でも、グローバル・コミュニケーションを通じて、一緒に楽しく仕事ができることを、私自身が日々感じています。言葉自体が問題ではなく、私たちのコミュニケーションの方法や適応力、相手と通じ合おうとするマインドセットが重要だと思っています。

Q: 何か読者にむけて話したいことはありますか?

探検、探検、探検。日本に閉じこもっていないで、積極的に世界を探検して、色々な価値観に触れてみてください!

将来の展望

Anchorstar Englishは、私たちにとって初めての教育事業の立ち上げです。ネルソンや、様々な経験を積んできたグローバルコミュニケーターと共に、ゼロから真剣に教育について考え、自分たちが理想だと誇れるプログラムを作っていくことは、とても有意義で価値のある挑戦です。私たちは生徒の皆様や、パートナー企業の皆様から、たくさんのフィードバックを頂きながらプログラムに磨きをかけて、「通じ合うことができる喜び」をたくさん作っていきたいと思っています。

現在は、おかげさまでネルソンだけでは頂いているご要望にお応えすることができず、新たなコーチの採用活動を行っています。私たちの考える英語教育に共感して応募してくださったコーチ候補は250名にも及びました。仲間が増えることで、さらにやれることが増えることを、チーム一同心から楽しみにしています。これからも、Anchorstar Englishをどうぞ、よろしくお願いいたします。

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