※オリジナル言語:英語(英語で書かれた記事を日本語に翻訳しています)
2022年5月末から10週間、anchorstar.comの編集長 川辺洋平が、デジタル人材の育成プログラムを提供するGeneral Assembly社(ゼネラル・アセンブリー、本社:米国ニューヨーク州マンハッタン)主催の「UXデザイン」講座に参加しました。デザインを体系的に学んだ経験のない川辺が、世界基準の新しいスキルを学んだ体験をシェアします。
まず、どのようなきっかけでUXデザインに興味を持ったんですか?
General Assembly(以下、GA)が、アンカースターと共同で事業開発をしている様子を見ていたことがきっかけのひとつです。そこからGAがどのようなサービスを提供しているのか気になるようになりました。調べたところ、GAはデジタルに関する様々な講座を開いており、その中に、今回私が参加した「UXデザイン」のコースがありました。
UXデザインのコースを選んだ理由としては、「疑似体験:商品開発」という記事でもお話した「自分が携わっているプロダクトとウェブサイトを世界基準にアップデートしたい」という思いがありました。
そもそも、General Assemblyはどんな会社ですか?
GAは、デジタル人材の育成プログラムを提供するニューヨーク発の企業です。元々、コワーキングスペースを運営していて、その傍らで、付加価値的に教育サービスを行っていたところ、その内容が良質であることが話題となって社会人向け学習サービスを本業に据えたそうです。
また、当初は個人向けにしか講座を展開していませんでしたが、現在では法人向けのコースも提供しています。今年の春にはエンゲージメントパートナーであるAnchorstarと協力して、日本におけるサービス展開の準備をしています。
実際にGAを受講している方は、どういった目的を持っているのでしょうか?
GAのコースを受講する方々は、おおまかに「転職してキャリアの方向転換を図ろうとしている人」と「今の仕事でスキルアップを狙っている人」の2種類に大別できるように感じました。
特にキャリア変更を狙っている人にとってGAのサービスは非常に大きな助けになると感じました。直接的な仕事の斡旋などはありませんが、転職に有利なポートフォリオの書き方を教えてくれる講師がいたり、サポートがとても充実していました。
具体的にはどのような講座を受講されましたか?
私が受講したのは「UX Design Part-Time」という初心者向けのコースでした。まず、申し込んですぐに、GAのシンガポール支部のスタッフと、1対1で英語の面談がありました。受講の動機や今後のキャリアについてなど、雑談も交えながら15分ほどお話ししました。
面談ののち、受講可能なコースのリストがメールで送られてきました。UXデザインのコースもその中に含まれており、自分のスケジュールとの兼ね合いを考えて太平洋標準時(アメリカ西海岸標準時)で設定されているものを選びました。
コースの日程や形式などはどういったものでしたか?
コースは今年5月から始まり、一回2時間のオンライン授業を週2回、これを10週間繰り返して計40時間授業を受けました。オンライン授業はZoomミーティングで行われ、授業時間や課題などの連絡はSlackを通じて行われました。また課題の提出はGoogle Classroomというシステム経由で行うため、事前にGmailアカウントを用意しておく必要がありました。
授業中のディスカッションや課題ではMiro(参加者全員が自由に書き込めるデジタルホワイトボード)や、Figma(プロのUXデザイナー御用達のブラウザ上でも簡単にデザインができるツール)などのツールを使用しました。
コースにはどのような方が参加していましたか?
参加者の約8割は女性で、男性は全参加者17人中3人しかいませんでした。年齢をお互いに聞きあうことはなかったのですが、印象としては20~40代の方が多い印象でした。私が参加したのはアメリカのコースでしたが、メキシコやオーストラリアからの受講者もいて、多様性を感じさせる授業でした。
そもそも、「UXデザイン」とはどんなものですか?
UXデザインのUXはUser Experience(ユーザーエクスペリエンス)の略称です。ユーザーエクスペリエンスとは、「ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験」のことを指します。つまり、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を設計(デザイン)するのがUXデザインということです。
基本的には、UXデザインは「ダブルダイヤモンド」と呼ばれる4段階構成のフレームワークを用いてデザインを考えていきます。
この図は、左から右に進むようになっています。左のひし形は、課題をみつける段階を表しています。「発見」ではとにかくユーザーにインタビュー、リサーチ、分析をして、多くの情報を洗い出し、問題や課題を洗い出します。「定義」は、「発見」の段階で洗い出した情報に優先度をつけ、取り組むべき課題や、優先的に何をするかを考え、整理します。
右のひし形は、発見と定義の段階で集めた情報をもとに、解決策を見つける段階です。「展開」で、これまでリサーチした情報を元に解決策をたくさん挙げ、「提供」で、解決策を絞り込んで、最終的なデザインを提案します。
「デザイン」という言葉からはアーティスティックな自由な表現技法を連想しがちですが、このように、効果的なデザインを作るうえではむしろ明確なフレームワークや原則を遵守するよう求められる学習内容でした。
UXデザイナーは具体的に、どのようなお仕事をするのでしょうか?
事業会社に所属していて、独自のサービスを開発している場合は、例えば、潜在顧客(今はユーザーではないが、今後ユーザーになってもらえる見込みのある層の人たち)にアンケートを実施して、その結果を基に、ユーザー体験(デザイン)を設計したり、既存のユーザー体験をより良いものに改善したりします。フリーランスのUXデザイナーの場合は、クライアント企業が提供しているサービスのユーザー体験に対して、フレームワークやメソッドを熟知しているプロとして、様々な支援を提供します。
UXデザインコースでは他にどんなことを教えてくれるんですか?
効果的なユーザーアンケートの作り方や、ペルソナ(購入動機や生活スタイル、年齢などのデータを集めて判明した共通項から形作られる「想定されるユーザー像」)の設定方法、そのペルソナが欲しがるサービスのアイディア出しの仕方、デザインソフトの使い方、オンラインユーザビリティテスト(ユーザーが実際にサイトを見るときの方法を検証するテストなど)の方法などを学びました。オンラインユーザビリティのテストでは、実際にユーザーがサービスを使う際の様子を録画して、サイトやアプリ内での動きを観察したり、使用感についての聞き取り調査を行ったりしました。これらの他にも沢山のことが学べたので、非常に充実した10週間になりました。
どういった形態で授業が進むのか簡単に教えてください
各授業はインストラクターの指導の下行われる1時間のセッション2回をワンセットとして行われます。
それぞれのセッション内でディスカッションやグループワークが行われ、どの授業でも、クラスメートと相談したり、一緒に作業する機会が設けられます。
また、各授業の終わりに、翌週までの課題が出されます。10週目に行われる最後の授業では、全生徒がUXデザインに関するプレゼンテーションを行います。このプレゼンテーションは、それまでの10週間の課題の集大成となるため、これを修了するためには毎週の課題をしっかりと行う必要があります。
今回のコースで一番印象的だった学びは何ですか?
一番印象に残ったのは、授業期間がすべて終わった直後の体験です。すべての授業に出席し終えた時点で私は、コースを修了できたと思い込んでいたのですが、後から「コース修了のスコアに到達していないため、課題を再提出してください」という連絡がありました。
GAはあくまで企業であり、学校法人ではありませんが、海外の大学などと同等以上の厳しい基準を設けて採点しているようです。受講者はシラバス(授業計画)の要件を満たさない限り、コースを修了することができません。この点、GAは本当に世界基準に従うことを大切にしていると強く感じました。
なぜそのことが一番印象強く残ったのですか?
それ以前の私は、何か新しいことを学ぼうとするときでさえも「ステータス」に執着してしまっていました。「有名大学を卒業したい」「海外留学をしたい」など、見栄えや聞こえの良さばかり気にしていたように感じられます。そんな中GAのコースを受けて、「学習において最も大切なことは、実際に世界で通用する知識とスキルを習得できたかどうかだ」ということに気づかされました。世界基準のスキルを身につけることは、自分のキャリアを本当の意味で前進させるために必要なものだったのだな、と身をもって感じました。
「世界基準のスキル」とは、具体的にどういうことですか?
世界基準のスキルとは、世界中どこでも通用するスキルのことだと思います。建物の設計や、施工のように、世界中どの会社でも通用する専門的かつ実用的(プラクティカル)な知識とスキルが重要だと思います。
たとえば、「UXデザイン」「データアナリティクス」「デジタルマーケティング」など、GAにも学習コースのある様々な業務領域があります。いずれにしても、同じ業界で知識や情報が共有されていて、世界中どこに行っても、誰しもが過不足なく意味を理解している世界基準の語彙でコミュニケーションがとれるようになることがとても大切だと感じます。
なぜ世界基準でものを考えることが重要なのですか?
同じ職業の中で、だれもが世界基準のスキルを持ち、共同作業ができるようになれば、人材の流動性(転職や中途採用など)を実現できるという意義もあると感じているからです。
また、企業としても、日本のみをマーケットとせず世界を視野に入れたいとき、従業員には、海外のマーケットや海外のビジネスパートナーと同じ基準(視点)で話せるようになってもらいたいと考えると思います。
GAはどのようにしてコースが「世界基準である」ことを担保しているのですか?
GAの講師は、有名企業で現役で仕事をしている方しかいません。副業として講師をやっています。既に一線を退いた方から教わるのと、現役の方から教わるのでは学びの質が全く違うと思います。その講師が関わった企業の機密保持規定にもよりますが、受講していて感動的だったのは「このケーススタディはうちの会社が関わっていました」というようなリアルな話を聞けたことでした。
また第一線で働いている講師の採点も厳しく、こういった点もGAの「世界基準である」こと、ひいては「業界最先端の教育である」ということを担保しているのだと感じました。
このコースを受ける前と受けた後で、なにか変化はありましたか?
UXデザインについてきちんと話すことができるだけの自信をつけられました。コースを受講していた10週間で、大学での授業1年分以上に相当する内容を学んだ気がします。また、どこで何をするにしても新しいことを学ぶことは簡単ではないのだなとも思いました。講座には様々な来歴を持つクラスメートがいましたが、誰も彼も同じようなところで、つまづいたり悩んだりしていました。互いに助けあい、励ましあいながらコースを修了できたのは良い思い出にもなりました。
大人になってもまだ新しいことを学ぶことはできるのですか?
もちろんです!私自身、社会人になってからもさまざまなことを吸収してきました。働き始めて10年、2つの大学院にも通いましたし、それが終わってすぐGAに参加しました。私は学び続けるということは、常に変化するビジネス環境に適応することだと思っています。新しいアイディアも受け入れなければ、自分のやり方に固執して学びの機会を逃してしまうかもしれません。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と云いますが、誰しも分からないことは新たに学んでいくという謙虚さを忘れてはいけないなと思いました。
コースを受講する中で、何か面白い出来事などはありましたか?
コースを修了する過程で多くの人に手伝ってもらったことです。「アメリカの大学は、入るのは簡単だけど卒業するのが難しい」というのはよく聞く話ですが、それを身をもって体験したように思います。
具体的にどんなエピソードがあったのでしょうか?
コースの終盤、修了するのにあと一点足りないのが判明しました。その一点を取り返すために課題を再提出したのですが、誤って違う場所に提出してしまいました。完全に自分の責任ですが、講師の方に頑張って自分の状況を説明したり、渡りをつけたりしてようやく切り抜けることができました。課題はちゃんとやるに越したことはないですね。大きな反省点です。
また、アメリカの大学と同じように最終成績はシラバスの要件通りに採点されます。課題をすべて提出したかどうかなど、出席以外にも様々な要件があります。これらはすべて生徒側にも公開されているので、とてもフェアな仕組みだと感じました。
どのような人にこのコースを勧めますか?
UXデザインのコースに関しては、「デザイン」と名の付く仕事に携わっている方なら、誰でも受けて損はないと思います。広告、出版、ウェブ、アプリなど、デザインが関わると思われるすべての仕事に通ずるものがあると感じました。また社内にデザイナーを抱えていたり、デザインを外注している企業にもおすすめだと思います。私がコースを受講した時のクラスメートにも、デザイナーやグラフィックデザイン関係の方など、常にデザインの先端知識を求められる職業の方が多くいました。
GAは法人向けにもサービスを提供しているとのことですが、どのような企業にこのコースの導入を勧めますか?
海外でも通用するビジネススキルや学習機会を社員に提供したい企業に勧めます。今まさに現場で働いている若い世代は、その多くが就職や転職の際にその企業から学べるもの、得られるものをしっかりと見定めていると思います。積極的に変化を求め、新しい社員を雇うことで進化を続ける企業は、そういった世代にとって魅力的に映ると思います。社員のスキルが「世界基準」を満たすものになれば企業の方向性もより明確になり、どんな人材が必要になるのか悩まずに済むようになるのではないでしょうか。
最後の質問になります。川辺さんは、これから編集長兼グローバルスタンダードなUXデザイナーを目指すのですか?
UXデザインに造詣のある編集長を目指します!今回UXについてのコースに参加したのは、UXデザイナーになるためではなく、UXデザインの応用の仕方を知るためです。今回得た新たな知識を今の仕事に活かしていければいいなと思います。