多分に漏れず、私もYouTubeやInstagramのショート動画を無意識のうちに永遠と見続けてしまうのですが、そんなショート動画の中でも何度も見返してしまうお気に入りが、SpaceXのブースターロケットを発射台がチョップスティック(箸で挟むように)キャッチする動画です。20階建て、250トンもの、タワマンみたいなブースターロケットが、ほんの3分ほど前に発射台から離陸し、地表から81キロも上で宇宙船を宇宙に押し出したあと、再度地球に落ちてきて、地表ギリギリのところでエンジンを再点火、体勢を立て直して発射台に戻ってくる。流行りのAI動画じゃないかと疑いましたが、これは紛れもなく事実。
イーロン・マスク氏が掲げる挑戦(チャレンジ)は、人類を多惑星種(Multiplanetary Species)にすること。すなわち、地球以外の惑星でも生活できる様にする、ということです。その技術を確立することで、地球に何か大変なことが起きても、地球人は滅亡しない、という未来を想像していただいているそうなのですが、いやしかしシンプルでスタイリッシュでロマンチックで、カッコいいな。
その壮大な挑戦を実現するために、マスク氏がまず最初に設立したのが、テスラ。人類を多惑星種にするためには、電気自動車の会社を設立するのである、という、もうこの時点で普通の人の想像力では理解できないのですが、なによりすごいのはその成功っぷりですよね。21世紀に入ってから設立した会社が、経った20年そこそこで、今や世界のどの自動車会社の時価総額をも超えてしまっています。この成功の根底にあるのは、まさにテスラは「自動車産業でNo.1になることに挑戦しているわけではなく、人類を多惑星種にすることに挑戦している」からこそ、従来の常識に一切とらわれない、全く新しい自動車会社ができたからなのでしょう。
ほぼ同時期に設立したSpaceXは、テスラの成功がもたらす豊富な資金を存分に投入し続けることで、宇宙産業では従来ありえないスピードで実績を積み重ね、これも経った20年足らずで安定的なISSへの有人飛行を実現させ、前述の通りブースターロケットの再利用によって衛星打上事業の常識を覆すなど、様々な偉業を成し遂げ続けています。もちろんこれも「宇宙産業でNo.1になることに挑戦しているわけではなく、人類を多惑星種にすることに挑戦している」からでしょう。
ショート動画に話を戻しますが、私が好きなSpaceXの動画は、ブースターロケットの帰還が成功する動画だけではなく、そこに至るまでの着陸「できませんでした」動画も、これまた迫力がすごい。初期のころは、落下位置がズレてたり、落下速度が速すぎたり、落下角度がおかしかったり、止まるはずのロケットの燃焼が止まらなかったり、そのたびにハリウッド映画さながら「ドッカーン」と大爆発するのです。同時に映し出されるのが、落胆しているはずのコントロールセンターの映像なのですが、なぜかスタッフ一同、大拍手しながら大盛りあがり。とにかくポジティブで、清々しさすら感じます。
大盛りあがりの理由は、ブースターロケットの爆発一つ一つが、彼らにとって、前回からの答え合わせであり、追加データであり、さらなる経験であり、新たな挑戦だからにほかならない。これらの爆発は、決して失敗ではなく「なにができなかったかを確認できた」ことによって、前に進んでいる、すなわち「進捗」しているのだから「成功」なのです。だから皆、拍手喝采していると。
「人類を多惑星種にする」という大きな挑戦がエネルギー源となり、テスラやSpaceXが自らの存在理由を想像し、やるべきことを理解し、それを本気で全うすることで、いままでではあり得ない方法とスピードで確実に未来が創造されている。また、その過程そのものが世の中が必要としているニーズに応えているため、電気自動車が売れ、ロケット打ち上げが売れ、ビジネスとして成立している。
最近のニュースでは、テスラが無人のロボタクシー事業に参入する旨を発表しました。これも、私たちが想像することができなかったスピードとやり方で世界中に普及するのかもしれません。SpaceXは、打ち上げ済みの6,000機もの小型の通信衛星を介して、世界中で飛行中の旅客機内での高速インターネットサービスの提供を開始。離陸前のアナウンスで「機内でのビデオ会議は周りのお客様の迷惑にならないように」という注意喚起が流れる日がもうすぐ来るのかもしれません。
この「大きな挑戦を起点とした循環構造」に世界中から投資が集まってくる。
そしてなにより、ときに派手な爆発を伴いつつも、技術の進歩があり、経験が世の中に共有され、新たな知識が得られ、我々は我々の可能性を再認識している。これは、人類が進化している、と言えるのではないでしょうか。すごいですよね。
さて、前説がだいぶ長くなってしまいましたが、私は今後の活動の原理原則として「大きな挑戦が源であれば、その活動すべては進捗である」ということを軸にしたいと考えています。
昨今、様々なところで人も組織も「失敗できるようにならないといけない」と言われています。これが、私にはいまいち、しっくりきていなくて。小さな失敗は許容し、それを繰り返しながら成功を見つけていくような、柔軟性のある人・組織になりなさい、ということなのでしょう。ただ、成長目まぐるしい若者や、ABテストをいくらでも繰り返すことができるテクノロジー企業ならまだしも、すでにそれが確立していて、様々な経験を積んで実績もある人・組織が、必然性もなく、明日からとつぜん「失敗できるようになる」ことは、まずないかなと思います。
でも、もしこれを「今までの経験や実績も、これから起こるかもしれないすべての失敗も、すべては成功への進捗だと喜べるような、大きな挑戦をしているのだ」ということにしましょう、であれば、どうでしょうか。いま私たちは、従来と未来の狭間みたいなところにいるからこそ、できる気がします。
コロナもあって「成功」の定義がシンプルに一種類じゃなくなってきたこと、世界中のコンテンツが言語の壁を超えてやってきて多様な価値観が身近になったこと、日本では特に円安の影響もあって国家間の経済力の差を目の当たりにするようになったこと、AIテクノロジーの急激な普及もあり「はたらく」の未来が霧にもまれていること。
いわゆる「従来の近代」は一巡したというか、いろいろあっていったん終焉を迎えつつあります。そうしたら、今まで認められていた人・組織の存在意義が、再度問われることになる。
今までの経験や実績を、すべてゼロリセットして、新たな存在意義を見つける必要はないと思います。むしろ、今までの経験や実績すべて、これのためにあったのであると言えるような「大きな挑戦」さえ宣言できれば良い。今までもずっと進捗していたのだ、これからも進捗していくのである、という「実は大きなことに挑戦していたんです」的なことがしっかりと言えれば、従来の自分を失うこともなく、未来の自分もブレずに頼れる、耐久性のある軸になるのではないかと考えています。
そしてそれは、ときに派手な爆発を伴いつつも、人類に進化をもたらすかもしれないし。
アンカースターは今年、おかげさまで創立10周年を迎えます。ここまでの活動を支えてくださったクライアントやパートナー企業のみなさま、アンカースターの取り組みに共感し、日々共に歩んでくれている仲間たち、そしてその仲間を支えてくださっているご家族のみなさまに、心より感謝申し上げます。
2015年に「世界企業の日本進出を支える」目的ではじまったアンカースターは、創立10年をもって、気持ち新たに以下の通りの活動を行っていきます。
私たちの存在意義(パーパス)であり、展望(ビジョン):Envision More
現状の硬直を許さず「もっと想像する(Envision More)」ことで、さらなる可能性が広がることを信じています。私たち社員一同、クライアント・パートナー企業、私たちが関わることができるすべての人・組織に対して、この信念と意思をもって向き合い、対峙していきます。
私たちの活動(ミッション):Momentum for Progress
挑戦に対して「進捗(Progress)」することを最優先とし、それを実現するために必要な「勢い(Momentum)」をつけることを私たちの主たる事業活動とします。
2025年が、皆様にとって挑戦と進捗に満ちた一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
アンカースター
児玉太郎